ファッション業界は泥臭く、デザイナーは泥臭い職業である。
トレードオフに徹した開発体制やODM、OEM丸投げから、自社企画、デザイン、生産管理のもとで工場への直発注。もちろん、上質な生地を提供してもらうテキスタイルコンバーターの協力も欠かせない。
これらは泥臭い、古典的な手法かもしれない。でも、やってみないと、低価格一辺倒で圧縮したファッション市場が活性化するとは思えないのである。
ファッション業界は華やかに見える、しかしとても泥っぽくて厳しい世界だという事を認識して。
上は福岡に住むデザイン関係のクリエイティブディレクターの方、下はNY在住のファッション系クリエイティブディレクター稲木ジョージさんのブログより。2つとも「Fashionsnap.com」に転載されていて、私はそちらを読みました。
共にファッション業界について書かれてはいますが、内容は全然違います。片や国内の大人向けブランドの生き残り策の話、片やNYでデザイナーになりたいと話す女性の話、なのですけど、共にキーワードが「泥」です。2人のファッション関係者が偶然にも同時期に「ファッション業界は泥臭い」と発言していることに、面白いなーと思ったので、ファッション業界の泥臭さについて考えてみます。
デザイナー職のイメージと現実
ファッション業界の中の、とりわけデザイナーという職種は、確かに華やかなイメージがあるでしょう。自分の感性が勝負!のクリエイティブな職業というイメージ。
決して間違いではないけど、それはデザイナーという職業のほんの一部分。それはきっと、パリコレの有名デザイナーであっても、表に名が出ない企業デザイナーでも同じだと思う。
泥臭いし、やってる仕事は実に地味。 ファッション業界に入りたいならその厳しさを認識すべき | http://t.co/vodd9rntyy http://t.co/k7EHBxOtKU @fashionsnapさんから
— あきねこ (@akinekomode) 2014, 7月 23
初対面の方に、「仕事は何ですか?」と聞かれると、「アパレルで企画とか生産を担当しています。・・・ま、パソコンに向かって事務的なことやってます。」なんて答えてます。イラストレーターで絵を描き、メールで工場に指示書を飛ばし、エクセルで進捗管理をして・・・、実際、私はパソコンに費やす時間はけっこう多いです。でも、絵も指示書も手書きという会社の方が多いのかな。どちらにしろ、あきねこさんの言うとおり、地味な仕事が多いんですよ。説明がめんどくさいので、「デザイナー」と言わない、言いたくなかったりします。職業をはっきりとデザイナーと言わないって、デザイナーあるあるですよね?それとも、ファッションデザイナーあるある?
泥臭いとは、信頼関係を築くコミュニケーション
ファッションデザイナーって、モノを自分で作れない(作らない)んです。洋服の元となる生地も、それを形にした洋服も作れません。実際に作るのは、著名ブランドだと職人さんであり、世の中に広く流通している衣料品だと、中国やアジアの工場に勤める人。
そして、自分で売ることもしません。商談に同行することもありますが、基本的に売るのは営業さんの仕事です。いかに自分がいい!と思うものを作っても、営業さんやバイヤーさんがいらないと言えば、それは商品でなく、ただの布を切って縫ったものです。
実際に作ってくれる人が作り、売ってくれる人が売ってくれないと、デザイナーは機能しません。デザイナーができることって、ホント、デザインだけなんですよ。
自分が思ういい!を、いかに作ってくれる人に伝え、自分が思ういい!を、いかに営業さんやバイヤーさんにとってもいい!に変えるか。それには、現場へ足を運び、現場の声を聞き、こまめにコミュニケーションをとる。その商品に対する思いを伝え、相手の要望も聞く。そこに値段、納期なども絡んできて、引いたり、強気に出たり、交渉する。そうやって、信頼関係を築くしかないんです。
これが「泥臭い」ってことなんじゃないかな。デザイナーには、豊かなイマジネーション、クリエイティブさも必要ですが、人を巻き込み、動かす力がないと、そのクリエイティブさは存在しないことと同じなのです。
商売とはそもそも泥臭いもの
こうやって書いてみると、泥臭さって何もファッションに限ったことではないと思います。モノを作って売る、という行為は、そもそも泥臭いものです。ただ、ファッションは夢を売る、きらびやかで華やかな側面があるので、想像と現実のギャップが大きいのかもしれませんね。
でも、私はこの泥臭さが嫌いではないです。工場、アパレル、売り場、すべてにおいて"いい商品"を作ることが、デザイナーの役目だと私は思っています。
《デザイナーの仕事に関連する過去記事》
デザイナーの企画の方法 - fashionを通していろいろ考えるblog
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