新しい生き方においては、衣食住ではなく、食住衣。
先日、渋谷のヒカリエで「衣食住から始まる『静かな革命』――ネットが変えた都市生活の現在」というシンポジウムがありました。
郊外に持ち家を買い、会社へ向かう通勤電車で新聞や週刊誌を読み、アフター5は同僚と飲みに行く…そんな風景を今の20代、30代はどれぐらい共有しているだろうか。いわゆる戦後的な会社員のライフスタイルは、近年の労働環境や家族構成の変化、インターネットが代表する情報環境の変化により、様変わりしつつある。
しかし、こうしたポスト「戦後」のライフスタイルの具体像が語られる機会はほとんどない。地方における「ヤンキー消費」が今ようやく語られるようになったのと同じように、都市部におけるビジネスパーソンの消費の変化も、今こそ語られるべきではないだろうか?
たとえば、グルメ誌や情報誌に代わり登場した「食べログ」や、インターネット通販の登場で定着した「お取り寄せ」は、新たな「食」文化といえるのか?
生活情報のほとんどを検索可能にしたハウツーサイトにより生活はどう変化したのか?
ノマド的なワークスタイルやシェアハウス・ムーブメントはビジネスパーソンの「住」をも変えうるのか? 今まで言語化されていないネットが変えた衣食住について本イベントでは語り尽くす。
あ、いや、参加はしてないんです。鳥井さんのブログ(隠居系男子)で知りました。東京近郊に住んでて、子供が預けられる環境だったら行きたかったなー。とっても興味深いです。
というわけで、このシンポジウムでどういう話がされたのかは全く知りません。はい、知りませんのですが、このタイトルや紹介文から感じたことを、「衣」を仕事にしているものの視点で書いてみたいと思います。
衣食住、とは
生活とは基本的に、命をつなぎ活動することであり、また生きながらえるために行う様々な活動である。 人は生き続けるためには、少なくとも、何らかの栄養を取らなければならず、(一般に)身体に何かをまとうことで体温を保つ必要があり、また野の雨や風をしのげる場所で眠りをとることを必要とする。つまり食べること、着ること、住まうことである。日本では、そうした生活の基本を漢字で簡潔に表現しようとする時は「衣食住」(いしょくじゅう)などと表現する。「衣食住」の基本は、人が生活していく上で必要な、食(食事)、衣(衣服)、住(居住、雨風をしのげる寝場所)の確保である。
そもそものテーマに挙げられている「衣食住」とは、生活の基本に必要なもののことであり、生活そのものを表現する言葉、というのがwikipedia的な説明です。
でも、このシンポジウムにおける「衣食住」は、もう少しいろんな意味が込められているように感じます。それは、広い意味を持つ「生活」というより、もっと人に寄り添った「日常」という表現の方がしっくりくるような。「日々の暮らし」だったり、「何気ない毎日」だったり、そんな言い方が似合うイメージです。そんな勝手な解釈のもと、これからの文章を書きます。
衣食住、と言いつつ
「衣」について語るといいつつ、上に引用した紹介記事には「衣」に関する言及がないのでした。「食べログ」や「シェアハウス」というような、新しい動きを象徴する分かりやすいキーワードが、確かに「衣」分野ではこれと言って思い当りません。実際のトークの中には「衣」の話も出てきたのかもしれませんが、紹介文に書かれていないことは、まぎれもない事実です。
新しい「衣食住」を語るとき、他の2つに比べて「衣」は少し置いてきぼりをくらっているように感じるのです。それはなぜか。自分なりの答えは、別件に対するツイートに表れているように思います。
イケハヤさんが家めしの素晴らしさを「ファッション」と表現してるのに、考えさせられる。
マクロビでも美食三昧でもない、ごく普通の「家メシ」が超クールである3つの理由 : まだ東京で消耗してるの? http://t.co/Hvq7Q87b52
— acorn (@acorn10103460) June 4, 2014
衣食住をめぐるムード
モノをたくさん持つことが裕福の象徴だった時代はとうに過ぎ、経済的に成熟期の今は、余計なものはいらないというマインドになっています。そして、細切れ時間をあくせくやりくりしている人が多い現代、あえて生活に手間をかけることが、ステータスになりつつあります。
「家めし」は、新鮮な食材を、その日食べる分だけ調達して、自分で調理して、大事な人と共有する。「食」の分野の中でも、特に華美でない「家めし」が「ファッション」になりえる理由は、イケハヤさんのブログにもいくつか上がっていますが、上に挙げた「余計なものを持たず、あえて生活に手間をかける」という要素が当てはまるからだと思います。
そして、一番の裕福の象徴でもある「持ち家」、結婚したら郊外に一軒家という意識も薄れてきています。「住」も、持たない方向へとシフトしています。「シェアハウス」なんて、まさに象徴的。
逆に「衣」というのは、モノそのものですから、余計なものを持ちがちなカテゴリーです。パンツ1枚では生活できません。トップスも必要ですし、外出するなら靴も必要。毎日同じ服を着るわけにもいかない、となると、「衣」関係のモノはどんどん増えていきます。
(「ノームコア」という新しいキーワードも出てきていますが、この動きはムードではなくトレンドだと捉えているので、ここでは割愛します。)
買うという行為において、個人のプライオリティーが大事になってくる、と以前に書きましたが、新しい基準のかっこいい生き方をしていくと、衣食住のプライオリティーは「食>住>衣」となる人が増えていくんじゃないかと思うのです。だから、「衣」は上の紹介分では書かれることがなかったのではないか、と。
「衣」を仕事としている私にとっては、残念な話のようですが、悲観はしていません。こういうムードを意識することで、違った視点からの「衣」仕事が見つかると思うのです。
私は、自分が思う「かっこいい世界観」を表現したくて、この業界に入ったわけではありません。そもそも、そんな世界観なんぞ持っておりません。それよりも、今を生きる人に寄り添った「かっこいい」を、知りたいし作っていきたい。
行ってもいないシンポジウムに思いを馳せ、そんな結論に至ったのでした。
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